移り行く世の中で生きるビジネスパーソンへ贈る、新しい時代に自分軸を持つ思考のヒント-代表取締役 壁山 恵美子-
年が明けた感覚のないスタート
2024年の年が明けると同時に、能登半島地震、羽田空港での衝突火災事故、アイスランドでの火山大噴火とたくさんのニュースが流れてきて、年始早々、このコラムも何から書けば良いものか考えあぐねているというのが正直な気持ちです。私自身、3代前(祖父)の出身は石川県の羽咋市。現在は、つながっている直接の親戚はもういないとはいえ、自分の先祖につながる人々が暮らしていた地域なので、今回のことは非常に気になっており、心を寄せています。
令和6年能登半島地震に際し、被災した方々へ心よりお見舞い申し上げるとともに、現在も避難している方々が多くいらっしゃるとのこと、1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
さて、前回のコラムで書きましたが、毎年12月に「行動計画実践講座」という講座を開催し、年末に受講できなかった方に向けて1月に入ってからも講座を開催しています。「行動計画実践講座」という名の通り、私自身、毎年年末年始で、やりたいことや前の年にやり残したこと、やりたかったことだがやれなかったことなどを洗い出し、それに従って1年の行動計画を立てていくという流れでやっていたのですが、今年は冒頭のような事象もあり、自分自身の思考の中にある「やりたいこと」を改めて考え直すということをしてみました。
仕事を優先にしがちの性格と習慣
「今年やりたいこと」を決めても、日々の仕事に追われていると、「この日・この時間にこれをやるんだ!」と予定を入れていたのに、取引先の都合やお客様の時間に合わせて調整した結果、自分のことはどうしても後回しにしてしまうことがよくあります。ここ数年は特に自分の行動にそういった傾向がみられ、あっという間に1年が過ぎてしまうという状態です。
昨年からでなく、数年前からの目標として「やりたい」と考えていたことは、「音楽を自分の生活に取り戻したい」ということ。もともと3歳からピアノを始め高校受験まで強制的にレッスンを受けていた過去もあり(あの時は自分の意思ではなく、実際には情操教育を受けさせたい親の意思でやっていたレッスンでした)、大人になってから、自分の意思で「またピアノが弾けたらいいな」「自分で何かを演奏したいな」という気持ちが芽生え、生活の一部に楽器を演奏することを取り入れる、という目標を掲げていました。
ちょうど、そんな折(4年ほど前)に偶然、友人から三線(沖縄の弦楽器)を譲り受けました。しかし「この機会に三線を弾けるようになろう」と毎週曜日を決めてレッスンをスタートするやいなや、コロナ禍のせいで通学ができなくなり、リモートでのレッスンはできたものの、やはり「毎週この曜日にレッスン」という定期的な時間の調整をすることが難しく、何となくフェードアウトしてしまったのです。
昨年も、仕事で疲れてふと検索した際に目にした動画で、何ともいえない東欧風の音色に引かれて、「ハンマー・ダルシマー」という楽器を手にしました。あまり聞き慣れない楽器かと思いますが、ハンマー・ダルシマーは打弦楽器で、台形型の木製の箱に多数の鉄弦が張られていて、それを木製のハンマーでたたいて音色を奏でる楽器です。ペルシャ発祥の「サントゥール」という打弦楽器が伝播し発展したものと言われており、中国の揚琴なども同じ系統の楽器になります。
この楽器は、先に述べたようにエキゾチックかつオリエンタルな音色を出すことができ、チェンバロやパイプオルガンのように倍音が響き渡るので、私はその音色に心を動かされて「これを演奏してみたい」と思ったのです。また、偶然にも知人が運営しているアトリエのプライベートホールに、ハンマー・ダルシマーの演奏者がドイツから来日するということで、その演奏会も聴きに行って演奏者と直接お話しする機会をいただき、個人レッスンの先生をしていただく約束もすることができました。その方がドイツへ帰国されるまでの間に、何度かレッスンを受けましたが、帰国された後はまた私の仕事が立て込み始め、レッスンがままならなくなってしまいました。レッスン以外にも自分から楽器を触る機会を持てたかというと、なかなかその時間が取れなかったのが現実です。そのようにして、また1年が過ぎていきました。
やりたいことは何を置いてでも行動しているはず
1年が過ぎていくのは本当に早いと感じます。24時間365日は誰にでも平等に与えられている時間ですが、やりたいことや、やらなければいけないことが多ければ多いほど、その流れは速く感じるものです。
「時間管理のマトリックス」というものをご存知でしょうか?これは「緊急」か「緊急でない」かという軸と「重要」か「重要でない」かという軸で4つの領域を表すマトリックスで、「緊急」の軸は、今すぐに対処することを求められているかどうか、「重要」の軸は、大切にしなければならないこと、あるいは大切にしたいことかどうかで考えます。例えば、「①緊急かつ重要」の領域には、締め切りがある仕事や自分に関わる議題がある会議などが入るでしょう。「②緊急ではないが重要」の領域には、自分の能力を高めたり、健康を維持したりと、長期的な視野で取り組むことが入ります。「③緊急だが重要ではない」の領域には、自分には関係のない電話や会議などが入り、「④緊急でも重要でもない」の領域には、単なる暇つぶしなど時間の浪費に当たるものが入ります。よく言われるのは、①の領域に時間を奪われ過ぎて、②の領域をおろそかにしていると、緊急ではないがいずれやってくる「重要なこと」に対処できなくなるということです。
「やりたいこと」と上記に書いていた「音楽」は私にとって自己研鑽の1つであるので②の領域に入り、自分の豊かな人間関係づくりや、生産性とのバランスを考えることに該当します。ここで私が考えたのは、「やりたいこと」という目標を毎回掲げているが、果たしてそれは本当に自分がやりたいことなのだろうか、ということでした。かつて映画『天使にラブ・ソングを2』を見た時、「あなたが、朝、目覚めて、歌うことしか考えられないなら、あなたは歌手になるべきよ」というセリフが心に響いたことを覚えています。このセリフの言わんとすることは、「やりたいことであれば、四六時中そのことを考えていて、寝ても覚めても、そのことをやりたいと思っている」ということでしょう。このセリフを思い出し、日々の仕事を優先してしまう自分がやりたいと言っている、時間のマトリックスにおける②の領域のものは、本当に自分にとって「やりたいこと」なのか。やりたいことであれば、何を置いてでもそれをやってしまっているのではないか・・・そんなことを考えました。実際にこの数年、行動に結びついていないのであれば、本当に「やりたいこと」ではない、まずは、「やりたい」と思い込んでいる自分を解放して、無理に「今年やりたいこと」を目標に掲げないほうが生きやすくなるのではないか、と。
このようなことから、2024年は自分が「なんとなくやってみたい」と思っている願望を、すぐに「やりたいこと」と決めつけず、この「やりたい」という幻想のようなものから自分を解き放ち、自分がまず行動をしてしまうことを優先に活動をしていこうという結論に至りました。
読者の方の中に、やりたいことがやれていないと考えている方がいらっしゃるなら、そもそもその「やりたいこと」が自分にとって本当に重要なのかどうかということから、ぜひ見直してみるとよいかと思います。